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とうてつ
饕餮紋骨杯(伝河南省安陽殷墟出土) 

現高29.2㎝、11.8㎝、14.5㎝ 
殷代後期

殷代には青銅製の容器だけでなく、陶製や玉製のほか、牛や豚など身近な動物の骨を素材とする容器も用いられました。当時は中国の華北地域にもアジア象が生息していたと言われ、本器も象の肢骨(手足の骨)を用いたと推定されています。
 
破片から復元されるラッパ口の杯は、上部に把手を差しこむための孔と固定用のひも通し穴があり、ビールジョッキのように片手に持ったと想定できます。殷代には、「醴(れい)」という甘酒のような粘性の強いお酒を飲んだと言われており、これ一杯でも十分な量になったでしょう。
酒に酔って神と一体化し、神の託宣に基づいて政治が行われたことが甲骨文字の研究を通して知られており、器の表面には羊角をそなえ口を横に広げた饕餮紋(とうてつもん)とそれに脇侍する夔龍紋(きりゅうもん)が彫刻されています。どちらも「f」形の羽根で神の気をあらわし、内部や周囲には雲気が満たされています。
(※饕餮紋については「饕餮紋平底斝」の解説もご覧ください。)
 
表面には赤や緑の色味が残り、蛍光X線分析によってもカルシウム・リン・銅・鉄・マンガンなどの成分が検出されたことから、本来は全面が赤や緑系の顔料で塗られていたようです。
 
これらの骨杯破片は、台北の中央研究院歴史語言研究所が所蔵する殷墟侯家荘1001号大墓出土の破片と接合すると言われており、殷王墓に副えられた重要な資料である可能性が高いため、実証的研究が待たれます。
(石谷) 
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