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方形三尊塼仏

縦24.2cm 横19.0cm
飛鳥時代(6世紀末)


奈良県明日香村橘寺出土と伝わる長方形の塼仏(せんぶつ)です。中央に定印を結ぶ如来椅像(いぞう)、両脇に合掌する菩薩立像をそれぞれ蓮台のうえに配します。主尊の頭上を天蓋と菩提樹が覆い、左右から飛天が舞い降ります。焼き固めた煉瓦である塼は、古代寺院の堂宇の壁面や基壇に貼り付けられ、荘厳の役割を果たしていました。

橘寺は聖徳太子によって建立された七寺の一つとされますが、創建年代は不明で、『日本書紀』天武天皇九(680)年にみえる尼房の焼失記事が文献上の初出です。

本品の表面には、胎土が赤や黒に変色している部分や多数の小孔がみられ、被熱して脆くなっていると考えられます。よく見ると、上下に割れた2片を接合しており、主尊近くの赤褐色の部分などは近くの部分に合わせて補っています。

笵型が共通すると考えられる類品は、橘寺のすぐ北にある川原寺裏山遺跡、奈良県高取町南法華寺(壷阪寺)などから出土していますが、浮彫の角がとれ全体的に模糊とした印象を与えるとともに、伝橘寺出土品にある突出する周縁がなく、大きさも2cmほど小さくなっています。衣文や菩提樹の枝葉など、細かな浮彫まで克明に表現されている本品は、笵型が消耗する前の製品と考えられます。

製作時のままの古代の仏像はあまり多く残っていませんが、発掘調査では全体像を復元できるような塼仏が複数出土しています。本品は出土寺院の年代から最古の塼仏とされており、仏教美術の点からも重要な資料といえるでしょう。
(馬渕)
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