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しゅこうし   ほう ちょうはくく
朱昂之 倣趙伯駒山水図扇面

縦25.8cm 横56.4cm
清後期・道光2年(1822)

扇の表側は、光沢のある紙に緑青などの鮮やかな顔料を用いて山水画を描いています。尖った山々に抱きかかえられるように楼閣が見え、ふもとの屋敷では一人の文人が窓の外の松葉や渓流の音に耳をすませています。款記は南宋の皇室画家・趙伯駒を褒めたたえていますが、趙伯駒はこうした「青緑山水」と呼ばれる着色の山水画様式の名手であり、本作はそれを典拠とした倣古山水画となっています。

筆者・朱昂之は、清代の正統派文人画を築いた「四王呉惲」のうち王翬や惲寿平の系統に連なる画家で、山水画のほかに花卉画と行書を得意としました。扇の裏側も彼の書で、金箋紙に王羲之や董其昌に学んだ行書を書き連ねます。穂先を利かせた右上がりの書きぶりは緊張感と速度感があり、凛とした印象を与えます。

裏側の文章は、江西省の二つの名山、閤皂山と望軍山についての地方志の記述を引いたものです。漢の張陵ら仙人が修行したという逸話や、奇抜な形の山石に神聖性を見出す風水思想にもとづいた記述から、これらの山が道教の仙山であることがわかります。

表の「青緑山水」は、中国においては古代あるいは架空の世界を描くのに用いられる様式でした。裏の文章が語る仙山の景観や道教の思想は、ちょうど表の画に対する説明となっています。また、朱昂之の書と画は同じく鋭い筆致が特徴的で、ともに清初以来の正統的なスタイルであり、まさに「書画同源」の好例といえるでしょう。
(飛田)
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