本文へ移動
とう いふん
湯貽汾 坐石聴松図巻

31.9×176.0㎝
清後期・道光14年(1834)

松の茂る園林の中で、一人の文人が膝を立ててくつろいでいます。傍に琴を置き、右方では童子が書籍を抱えて橋を渡り、左方ではもう一人の童子が茶を沸かしながら鶴を見ています。

周囲の山水は、淡彩と渇筆で描かれた正統派の文人画風となっています。画面前半を高い松と渓流でさえぎり、ここが世俗と離れた奥深い世界であることを印象づけます。巻末は川越しにはるかに遠山を望みます。常緑の松と広大な遠景は、ともに主人の高潔な精神を象徴します。

中国絵画には単に写実的な肖像画のほか、山水や文人らしい道具立てによってその人の教養や人徳を表現するジャンルがありました。本作もこうした伝統に連なり、園林中を散策する構成は南宋以来の宮廷絵画、柔らかな山水の中で人物の顔だけ写実的なのは西洋画の影響を受けた明末以降の特徴です。

筆者の湯貽汾(1778~1853)は清朝後期の文人画家で、地方の武官を歴任した後、南京に隠居して幅広い絵画を手がけましたが、最期は太平天国の乱に巻き込まれ自害しました。本作は職を辞した直後の制作意欲が旺盛な時期に、肖像の像主である振文という人物のために描かれたものです。

前後の題跋は漢軍旗人(清朝の軍事組織である八旗に所属した漢民族)の徳林によるもので、これも振文に依頼されたようです。隷書・行書ともに清朝後期から流行した碑学派の重厚な書風によっており、清末の代表的な書家・趙之謙にも影響を与えたという徳林の力量をよく発揮しています。
(飛田)
【関連論文】



TOPへ戻る