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             らんていじょ  おうほうこうばつ
万松山房縮本蘭亭序 翁方綱跋本

縦4.5cm 横3.0cm
明末期・万暦34年(1606) 跋:清中期・乾隆47年(1782)

書聖・王羲之(303〜361)の最高傑作「蘭亭序」は、王羲之の書を愛した唐の太宗の墓に副葬され、地上から姿を消しました。以降は初唐の書家たちによる模本を至上とし、さらにその拓本や重模本が何系統も作られ、伝説の名品の複製を手もとに置きたいという需要に応えてきました。

明末の文人、李宓もまた王羲之に憧れ書の名手となった一人でした。小字を得意とした彼は、青田石(篆刻の印材によく用いられる石)の四面に蘭亭序を縮小模写し、この「万松山房縮本」を作りました。蘭亭序のミニチュアは宋代からすでに「玉枕本」が作られていますが、それに劣らぬ出来と評されます。

本作の末尾には翁方綱(1733〜1818)が、本文より小さな楷書で技法を誇示するかのように、2度にわたって跋を書いています。翁方綱は当時の書学の第一人者ですが、1文字3ミリにも満たないこの跋からは、その学識とともに精密きわまりない技巧が窺えます。

跋文を読むと、翁方綱は「万松山房縮本」の価値を認めつつも、改行位置や偏(へん)と旁(つくり)のバランスが原本と違うのを遺憾とし、40ヶ所以上を修正したオリジナルの縮本蘭亭序をつくったと述べています。また、2度目の跋には、小字はただこまごまと詰め込めばよいのではなく、大字と同じような豪快さをもって書けてはじめて上手だと言える、と論じています。この翁方綱跋は拡大しても十分に見ごたえがあり、横画は鋭く明確な筆の打ち込みを見せ、はねや払いには厚みを持たせており、まさに小字の理想を実践したものと言えるでしょう。
(飛田)
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