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しんせん  りん かいそ じじょじょう
沈荃 臨懐素自叙帖

縦179.0cm 横49.0cm
清初期・康熙16年(1677)

清代初期の官僚・沈荃(1624~84)による草書五行の大幅で、「絖本」と呼ばれる滑らかで光沢のある絹に書かれています。行立ては整然としていますが、横画の張り出しや大ぶりな円弧をまじえ、全体の統一感のなかで細かな変化を作っています。側筆(筆を倒した状態)を多用し、迷いのない軽快なリズムで書き進んでいます。

沈荃は松江(上海市松江府)の出身で、明末芸苑の指導者・董其昌の後輩にあたり、その書風を継承しました。順治9年(1652)に第三位で科挙を通過し、能書の高級官僚として康熙帝(在位1661~1722)の寵遇を受けました。康熙帝は董其昌の書を最も好みましたが、沈荃は董其昌と康熙帝をつないだ存在として重要です。

この作品は唐代の名品・懐素「自叙帖」(原本・台北故宮博物院蔵)を手本に写したものです。拓本として出版された法帖に基づいたと思われますが、実は、原本とは字形が変わっていたり、途中の文章を省略したりと、忠実な写しにはなっていません。連綿(つづけ字)も減って余白が広くなり、むしろ董其昌の影響を強く感じさせます。しかし、沈荃が他の古典を写した作品と比べると、本作では流暢な円運動が強調されており、これこそ彼が「自叙帖」に見出した最大の特徴だったと考えられます。

釈文:真卿早歲常接遊居、屢蒙激昻、教以筆法。資質劣弱、又嬰物務、不能懇習、迄以無成。追思一言、何可復得。向使師得、親承善誘、函挹規模、則入室之賓、捨子奚適。嗟歎不足、聊書此、以冠諸篇首。丁巳夏五、倣素師。為公瞻詞壇。華亭沈荃。
(飛田)
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