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杉浦乗意 鉄拐図小柄


銘 乗意(金文方印)「永春」

9.8×1.5×0.5㎝

江戸時代(18世紀)


刀の鞘(さや)に装着する小刀の柄で、銅に四分の一の銀をまぜて特殊な溶液で煮込んだ「四分一(しぶいち)」とよばれる合金で出来ています。
 
杖をついたみすぼらしい身なりのやせた男。
口から吐いたけむりのようなものの先には人がたの影がみえます。
中国の仙人・李鉄拐がみずからの魂を遊離させる場面です。
 
弟子の手違いにより戻るべき自分の身体を失った鉄拐は、近くにあった脚の不自由な物乞いの死体をかりてよみがえったといいます。
仙術を体得した人物として道釈人物画にえがかれ、日本の七福神にあたる「八仙」のひとりとしても知られます。
本品はうら面に「八仙人 五本之内」とあることから、もとは八仙を題材とした五本一組のうちの1点であったとみられます。
 
作者の杉浦乗意(1701~61)は「超凡の奇工」(『装剣奇賞』)と評され、奈良利寿、土屋安親とともに江戸で活躍した奈良派を代表する名工です。
江戸中期、描線をタガネできざんで絵画的な図柄をあらわす「片切彫(かたきりぼり)」の作品が大流行しますが、乗意はさらにひと工夫をくわえ、図柄の細部を彫り下げて凹凸をつける「肉合彫(ししあいぼり)」を創意したといわれ、本作でも立体感を出すことに成功しています。
渋くおちついた色合いの地がねに、金銀などいっさいの彩りを加えない作風はかえって深い魅力があり、具眼の士の帯刀を引き立てたことでしょう。
(川見)
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