河野春明 狂歌図鐔

こうのはるあき きょうかずつば
河野春明 狂歌図鐔

銘 天保元庚寅臘 風春明法眼鐫
6.2×5.8㎝ 厚さ0.3㎝
江戸後期・天保元年(1830)


杓子の形に透かしを入れた真鍮製の小さな鐔で、縁をゆるやかに厚くなるように作り、側面をまるく仕上げます。
表面には狂歌の上3句「杓子こそ曲りたれどもすくふなれ」、裏面には下2句「直(すぐ)なぼうにてつぶす摺こぎ」を刻み、すり鉢とすりこぎを表します。

仮名はもとの漢字がわかるようにあまり崩していないため、一見すると漢文が刻まれているように思うかもしれません。

この狂歌はもともと寛政の改革を風刺した落首で、田沼意次を杓子、松平定信をすりこぎにたとえ、曲がっていても救う役割を果たすことができるが、まっすぐな理想をかかげた政治であっても結果的には人びとの生活を圧迫してしまうと批判を込めています。
しかし、この鐔が制作されたのはそれから40年ほど経過しており、その動機が政策批判とも思えません。
外見よりもその本質や実用性が重要である、あるいは人や物には適材適所があるといった、この落首から得られる教訓に共感したのではないでしょうか。

作者の河野春明(1787~1857)は柳川直春に学んだ彫物師で、題材や技法に工夫を凝らし、江戸の粋を作品に表して一家を成しました。
諸国遊歴を好み、最期は新潟で客死したとも伝えられます。

すり鉢は下地よりも彫り下げて凹凸をつけて表すのに対して、すりこぎは四分一(朧銀)を象嵌して浅い浮彫とし、掛紐を金であしらいます。
一見平滑に見える下地にも細かな鎚目模様を打ち並べており、独特の風合いを実現しています。
目立つ文様をあえて裏面に配し、杓子形の透かしの上下に「杓子」の文字を刻むなど、機知に富んだデザインとなっています。

(川見)

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